お客様の挑戦
モータースポーツ車両の風洞実験を可能な限り現実に近づけるどうすればよいのでしょうか。業界の誰もが、同じ答えをするでしょう。それは、固定された床面を、風速で移動する可動面に置き換えることで可能になります。
「車が動いていて、空気や道路が止まっている現実世界とは異なり、固定床の風洞では動いていない車と床に風が吹き付けます」とノースカロライナ州コンコードに本社を置く Windshear Inc. のサイトマネージャーである Jeff Bordner 氏は述べています。「そのため、摩擦損失により床面に沿って風速が低下する境界層が形成されますレーシングカーは通常、地面から3〜8 cm の高さにあり、十分にこの境界層の範囲内にあります。その結果、固定床の風洞は、実際の空力現象を正確にシミュレーションすることはできません」
一方、乗用車の多くは 15 cm 以上のクリアランスを確保しているため、境界層の悪影響はそれほど重要ではありません。これまで、固定床式の風洞は、開発中の自動車の大部分を試験するのに適していました。しかし、乗用車のアンダーボディの空力特性が重視されるようになり、より多くの OEM メーカーが可動床式風洞に移行する必要性を感じています。
「北米にはフルスケールの可動床式風洞がないため、米国のチームはヨーロッパに飛んでこの種の試験を行わなければなりませんでした」と Bordner 氏は述べています。「しかもそれは、外部のレーシングチームが試験できる数少ない施設に入れる場合に限ったことでした」
Windshear 社は、米国市場におけるこの空白を埋めるために 2006 年に設立されました。「この種の風洞の必要性を感じたので、どのチームでも使える風洞を作ることにしました」と Bordner 氏は語りました。トップレーシングチームを惹きつけるためには、試験の精度や再現性に優れた施設でなければなりません。また、Windshear 社の収益性を維持するためには、可能な限り高い処理能力を支援する必要もありました。
「プレミアムなサービスを創り出すのですから、プレミアムな移動床システムが必要だと考えました」と Bordner 氏は述べています。「自動車やモータースポーツの試験専用の風洞に可動床式を供給する点において、MTS が他に類を見ない経験を持っていることはまちがいありません。また、可動床システムの設置に関して MTS が持つ比類のない経験も魅力的でした」
MTS のソリューション
Windshear 社は 2008 年 9 月、フルスケールの可動床式風洞を開設しました。これはこの種の施設としては北米で初めてのものであり、この規模の可動床式風洞としては世界で 3 番目のものになります。さらに重要なのは、世界初の商用の全幅にわたる可動床システムであり、実寸大の車両試験をサポートしているということです。
このプロジェクトには、Windshear 社を所有する Haas Automation 社が出資しています。施設の設計と建設は、風洞開発における世界的なリーダーであることに異論をはさむ余地のない、Jacobs Technology 社が担当しました。Jacobs Technology 社のエンジニアは、Windshear 社の可動床式風洞の日常運用の管理も行っています。
この閉回路式風洞の空気は、160,000平方フィート(14,864平方メートル)の面積を占めています。メインファンの直径は 22フィート(6.7メートル)、定格出力は 5,100 HP で、時速180マイル(289.6 キロメートル/時) の風速を出すことができます。空気の温度は 1˚F (0.6˚C) 以内になるように制御されています。
MTS の Flat-Trac® 可動床のサイズは、幅 10.5フィート(3.2メートル)、長さ 29.5フィート(8.9メートル) です。簡単に風速に合わせることが可能であり、0 から時速180マイル(289.6 キロメートル/時) まで 1 分以内に加速します。この 「路面」は、実際には厚さわずか 1 mm のステンレス鋼でできた連続ベルトです。テストでは、このベルトを貫通するセンサーによって各タイヤにおける空力ダウンフォースを正確に測定します。
高度なソフトウェアにより、高精度で安定的な車両性能評価ができます。また、高度な制御やデータ収集機能により、レーシングカーの性能をこれまでにない形で把握することができます。一般的な固定床式風洞においてクリアランスの低い車両における試験データの完璧性を損なってしまう境界層がない状態で試験が行われます。
Windshear 社での試験は、極秘で行われます。顧客の試験が終了すると、すべての試験データファイルは、 Windshear 社のサーバーから消去されます。また、この施設は、2つのレーシングチームがいかなる時もお互いの車両を見ることができないように物理的に構成されています。
「これは、世界中のモータースポーツ車両開発者にとって、エキサイティングな新しいチャンスです」と Bordner 氏は言いました。「私的な施設に時間を割いてもらうように依頼する代わりに、トップレーシングチームは、安全で最新鋭の施設をすぐに利用できるようになりました」
お客様のメリット
現在、この施設の週 40 時間の営業スケジュールは、北米全土からやってくる NASCAR やインディカーのレーシングチームで一杯です。ヨーロッパやアジアのチームも、この施設の最先端の機能に惹かれて、風洞試験を Windshear 社に持ち込んでいます。
「MTS と Windshear 社の関係により、我々は最先端の技術を維持することができ、モータースポーツの開発者たちはそれに注目しています」と Bordner 氏は述べています。「さらに、MTS は私たちの最先端の試験施設をフルに活用し、新しい技術を実際の設定で応用する機会を得ることができます。そして、当社は他にはない新しい機能を提供できるようになりました。海外の可動床式風洞施設に追いつくだけでなく、技術的なリードも持っています」
Bordner 氏によると、 Windshear 社の施設における試験の精度、再現性、処理能力の最適化の支援に、MTS は欠かすことができなかったとのことです。「当社は、可動床の設置における MTS の専門知識に大きく頼っており、これは高レベルのデータ完全性と処理能力を達成する上で非常に重要でした。
2008 年 9 月、Windshear 社は MTS と共同で、可動床システムユーザーのグループミーティングを開催しました。ノースカロライナ州コンコードで開催された 2 日間のミーティングでは、風洞運用者が集まり、成功事例を共有し、最新技術について学びました。これには、Windshear 社の施設の総合見学も含まれていました。
「この会議の背景にあるアイデアが、当社の技術に対するオープンな取り組みと一致していたので、この会議を共同開催する機会に飛びつきました」と Bordner 氏は述べています。「今や Windshear 社、MTS 社、Jacobs Technology 社が、ここ Windshear 社の施設で協力しており、他の会社が物事を特に秘密にしておく必要は、より小さくなっています。これらの専門知識が結集されたとき、何が実現されるのか興味深いです。」
TMG の施設で、自動車開発者は、早急なプロトタイピング、完備された機械加工用刃物、フルスケールおよびパーシャルスケールの路面走行機能、そしてドライブライン、ステアリング、および部品の高度な試験を利用することができます。これらの機能はすべて統合されており、優れた試験データを作成し、より良い設計をより早く、より低コストで市場に投入することができます。
Gehlen 氏によると、TMG が OEM の試験施設から受託試験施設へとスムーズに移行するためには、MTS が不可欠であったそうです。「2 人の MTS のエンジニアが、F1 プログラムの初期段階から TMG に常駐しており、それ以来の彼らの当社への貢献は大変大きなものがあります。MTS は例外なく、我々の目的を深く理解し、その目的を達成するための最適な方法を見出す能力を発揮してくれました。
「TMG には現在、適切な技術、適切な専門技能、そして適切な試験ソリューションのパートナーがあります。そして、それらは当社を世界で最も先進的な自動車開発の受託試験施設の一つとしてくれています」と Gehlen 氏は述べています。「今や単純に知らしめるだけの問題なのです。なぜなら当社には、さまざまな自動車開発者にとってのかけがえのない価値があるからです」