お客様の挑戦
Implant Performance Lab は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) の整形外科と提携している整形外科病院内にあり、整形外科用インプラントのバイオメカニクス分野の研究と教育を行っています。このグループは、インプラント生体力学と外科手術、臨床転帰の主要な関連性の特定、またこれらの相互関係を調査するためのモデル構築を通じた整形外科用インプラントの生体内での性能理解やシミュレーションを専門としています。チームでは、臨床的有用性を正確に予測するため、各機器に対し実際の臨床治療を想定した力やモーメントをかけて試験を行っています。
インプラント開発者は様々な強度試験や疲労試験、摩耗試験を行い、予測される機器の性能を理解した上で特性化します。通常、これらの試験結果は規制当局の承認を得る際に提出する書類の一部として添付されます。
「これらの試験は、機器を市場投入する上で欠かせない工程です。しかしこの種の試験を行う場合、時間の経過と共に他の問題が発生しないか確認するために継続的な更新と改善が必要です」と、Implant Performance Lab の Sophia Sangiorgio 博士は語ります。「例えば人工股関節の場合、1970 年代には大腿骨ステムの疲労破壊がよく見られました。その結果、後の研究開発により疲労破壊に強い大腿骨ステムが登場しました。
しかし、この数年でステムの品質に対する要求が高まり、患者の活動レベルも向上したため、インプラントに緩みや脱臼といった新たな種類の不具合が発生するようになったのです。患者にとって、これらの不具合は疲労破壊と同じくらい致命的です。このようなシナリオに焦点を当てることで、私たちは患者の転帰改善を目指す外科医や機器開発者の取り組みをサポートしています」
Implant Performance Lab は、整形外科病院の J. Vernon Luck 整形外科研究センターに所属する研究所のひとつで、ベアリング表面のトライボロジーや摩擦粒子の分析、インプラントの回収分析、骨や結合組織のバイオメカニクス、コンピュータモデリングなど様々な専門分野での整形外科研究を行っています。Implant Performance Lab の所長である Eddie Ebramzadeh 博士によると、力学試験はインプラント性能の評価を行う上で他の手法と比べていくつかの利点があるそうです。
Ebramzadeh 博士は「ヒトの筋骨格系を含む極めて複雑な生物学的環境を再現する場合、動物では小さすぎますし、患者にプロトタイプ評価は適切といえないし、コンピュータベースのモデルでこのような再現を行うことは一般的に困難です」「ヒトの体内では骨や筋肉、組織が力学的に相互作用しているため、生物学的環境を再現するには力学モデリングが最適ですが、この手法が功を奏するは、どれほど精度と再現性に優れた力学試験を設計・実施できるかにかかっています」と語っています。
MTS のソリューション
Implant Performance Lab では、様々な MTS ロードフレームや試験ソフトウェア、制御システムを導入し、生体力学試験をサポートしています。開発中の整形外科用機器を人工骨または人体構造体に移植し、カスタム設計の試験治具を搭載した試験システムに取り付けて生理学的負荷とモーションをかけ、時には何百万というサイクルを通じて試験を実施しています。
このチームの研究は、腰や膝、足首の関節をはじめ、脊椎、大腿骨、脛骨、肘、手に至るまで、ヒトの筋骨格システムの実質上すべてのエリアを網羅しています。
2 つの単軸ロードフレーム (ひとつは脊椎間板形成の摩耗シミュレータに改造済み) とインプラント固定面の微動をモデリングするフレッティング摩耗シミュレータを含む 5 台の力学試験ステーションにより、現在、多忙な試験スケジュールに対応しています。また、腰、膝、脊椎の関節形成の固着および安定性評価用に 2 軸ロードフレームが採用されています。2 軸システムはねじれ荷重と軸荷重をかける際に用いられ、またカスタム設計の試験装置を使うことで各解剖学的部位に固有のモーメントと他の複雑な生理的負荷プロトコルをかけることができます。
同研究所では 6 ステーションタイプの MTS 腰椎用ディスク摩耗シミュレータと全 8 自由度でのシミュレーションが可能な MTS 脊椎運動学試験システムを導入しており、これらのシステムは、主に設計が異なる腰椎後部動的安定機器の評価に利用されています。最近では、研究員が様々な外科技術を評価していて、青年期の脊柱変形矯正や複雑な生体力学の問題に取り組んでいます。
「これらの力学試験装置のおかげで、数々の関節置換インプラントや骨折固定装置の生体内および外科的作用について、精度と再現性に優れたシミュレーションを実施する自信がつきました」と、Sangiorgio は語っています。
お客様のメリット
Ebramzadeh 博士によると、チームの現在の力学試験能力は、整形外科医が日々直面する問題の解決に取り組む同研究所の注力分野において理想的と言えるそうです。
「この研究所には、実践的な臨床応用に重点を置くことをサポートするための十分な設備があります」と、Ebramzadeh 博士は言っています。更に彼は話を続け「インプラント機器の性能評価を通じて、整形外科医と患者の皆さんに大きく貢献できるようになりました。
この設備に加え、Luck Research Center で活躍するエンジニアや生物学者、外科医から構成された経験豊富なチームにより、整形外科界に有益な研究結果を発表しています。私たちは、インプラントの機能寿命を予測する試験データを提供することで、高い評価を得ています」と語りました。
また、Implant Performance Lab はロサンゼルス近郊の工学部学生の研修先としても高い人気を博しています。この理由について Sangiorgio 博士は、トランスレーショナルな研究体制にあると解釈しています。
「学生は最新の整形外科技術を扱い、主に理論重視の工学プログラムでは得られない実務経験を積むことができます」と、Sangiorgio 博士は言っています。「自分たちの研究が患者の生活の質の向上につながるということを実体験を通じて学ぶことで、その研究に携わるすべての人が各自の使命に喜びと意義を見いだすことができるのです」