お客様の挑戦
骨セメントは椎体の補強において重要な役割を果たします。この低侵襲手術では、外科医は痛みの緩和や脊椎の安定性向上、また時には身長の復元を目的として脊柱の骨折部位に結合材を注入します。高齢化社会による骨粗鬆症を原因とした骨折の増加に伴い、骨セメントの世界的な需要はかつてないほど高まっています。
現在、脊椎補強用の骨セメントの成分には主にポリメチルメタクリレート (PMMA) が用いられています。PMMA は生体不活性固体ポリマーで、これをパウダー状にしたものを脊椎増強術中にモノマー液滴と一緒に注入します。これが硬化すると、高い機械抵抗を備えた固体になります。
しかし最近になって、PMMA ベースの脊椎補強用骨セメントの性能に関する懸念が出てきました。PMMA セメントは非常に硬く、硬すぎるため患者の隣接する椎体の骨折につながる可能性が明らかになったのです。更に、硬化に使用される一部の液体成分は有毒であり、また硬化処理手順が招く温度上昇により周辺組織を損傷するリスクもあります。これに代わる成分として、無毒で体内に自然に再吸収されるリン酸カルシウム (CaP) が検討の対象となりました。しかし、CaP は脆い素材であり、背骨に自然にかかる曲げ力や剪断力にさらされると粉々になってしまいます。だん
スウェーデンのウプサラにあるウプサラ大学の理工学部所属の応用材料科学チームは、PMMA と CaP のどちらも納得のいく成分ではないと考えています。20 名のメンバーから構成されたチームは、様々な生体材料の研究を管理しており、現在は骨セメントに関する研究に力を入れています。
「私たちの研究の最終目標は、PMMA の強度とリン酸カルシウムの無毒性を備え、どちらの成分の欠点もない新しいタイプのセメントを見つけ出すことです」と、 ウプサラ大学応用材料科学チームのプロジェクトマネージャー兼生徒監督を務める Cecilia Persson 博士は語っています。「試験実験室で脊椎の動きを再現するのは簡単ではありません。最大の課題はリアルさです。私たちは現在、主に準静的圧縮下でセメントを評価していますが、長期的にどう機能するかについても明らかにしたいと考えています。」
MTS のソリューション
ウプサラ大学は、骨セメントの研究活動を支援するため、MTS Systems Corporationと提携し、MTS モデル 858 Bionix® 多軸油圧サーボ卓上試験システムを Applied Materials Science の試験ラボに統合しました。
「私は以前に仕事の一環で、MTS の試験装置を使用したことがあり、その精度と信頼性は認識していたので、これがウプサラ大学での研究にも役立つと考えたのです」と Persson 氏は述べています。「実現可能なように調合されたものを徹底的に評価するには、何百万回ものサイクルが必要になることがわかっていたので、試験システムの信頼性と再現性が MTS を採用する決め手となりました。試験システムの信頼性と MTS の技術サポートレベルの高さに満足しています。」
MTS Bionix システムでは、最大 25kN の負荷で静的および動的両方の軸方向試験を行います。このソリューションには、MTS FlexTest® 制御装置、MTS SilentFlo™ 油圧供給装置、MTS MultiPurpose TestWare® ソフトウェアも含まれています。
MTS Bionix ソリューションに MTS Bionix EnviroBath 環境シミュレーションシステムを組み合わせることで、Applied Materials Science チームは、人間の体温を一定に保つ生理食塩溶液内の骨セメントに負荷を同時に加えることができます。その結果、椎体形成手術終了後、長期間が経過した後に、患者の体内でセメントが最終的に受ける負荷と条件を正確にシミュレーションすることに成功しました。
「MTS システムでは、人が数年に渡って受ける負荷を再現しながら、時間の経過とともにセメントの特性を評価することができます」とPersson 氏は述べています。「MTS システムは非常に柔軟性があるため、今後さらに複雑な試験も実施できるようになるでしょう。」
お客様のメリット
Persson 氏によると、MTS Bionix の試験ソリューションを導入したことで、チームは、 試験システムの性能や試験データの妥当性について懸念することなく、新たな調合に集中してより多くの時間を割くことができるようになったと述べています。
「骨セメントが実際に活動的な生活をしている人の中でどのように機能するかについて、正確にスナップショットに収めることができると確信していました」と述べています。「非常に柔軟な試験セットアップの おかげで、独創的な手法を用いたり、さまざまな方向性を開拓して新たな可能性を見出すことができたのです我々はここ数ヶ月でかなりの進歩を遂げましたが、この成果は、MTS のハードウェア、ソフトウェア、サポートをしっかりと実行したおかげで得られたものです。」
次なる椎体補強用骨セメントを見出すという新たな課題が待ち受けていますが、Persson 氏は、最終的にはこの目標を達成できる体制作りは万全だと語っています。
「研究の観点から見ても、まだやるべきことはたくさんあります」と Persson 氏は述べています。「しかし、私たちは実行可能なソリューションに日々近づいており、可能な限り迅速かつ効率的に目標に到達するために必要なリソース、技術、専門知識は備わっていると確信しています」と述べています。