George E. Brown, Jr:地震工学シミュレーションネットワーク (NEES) は、全米規模でネットワーク化された地震シミュレーションリソースであり、コロラド大学ボールダー校をはじめとする実験研究施設の地域分散型ネットワークを提供しています。NEES は地震工学の進化に特化し、民間および機械的基盤システムの性能を最適化することを最終目標としています
お客様の挑戦
歴史的に地震工学エンジニアは、地震負荷の状況下で構造システムの性能を評価する際に次のふたつの方法 からひとつを選択するように強いられてきました。
1.
全体の構造物 を物理的に揺らす大型の地震シミュレータ (振動台)
2. 複数のアクチュエータを用いて構造体
の 特定の部分に負荷や動きを加える
地震シミュレータを使用することで、振動 の動的要素を評価するための現実的な応答速度を得ることができます。しかし、多くの試験ラボではセットアップに多大な時間と費用がかかることから、構造物全体を振動 台に設置することはコスト的に難しいと考えられています。 さらに、試験できる構造物は 試験機器のサイズと最大積載量によって制限されます。
一方、疑似動的試験はコストが低く、地震シミュレータよりもはるかに 大きな構造物を試験できますが、実際の地震事象よりも ゆっくりとした速度で負荷と運きを加えます。事実、負荷レート は、 構造物の地震に対する実際のリアルタイム応答速度よりも100倍遅い場合も珍しくありません。その結果、擬似力学試験は構造物の強度や剛性を測定に優れたツールですが 、構造物の耐震性能を評価するために不可欠な動的な 特性を十分に評価することはできません。これまで、 大半のハイブリッドシミュレーションシステムは擬似力学試験がベースになっていました。
MTS のソリューション
コロラド大学ボールダー校 NEES は、MTS と密接に協力して最先端の Fast Hybrid Testing (FHT)システムを開発しました。このシステムは コンピュータモデルが、 下部構造を取り囲む構造物の物理的な影響をデジタルでシミュレーションしながら、下部構造を物理的に試験するように設計されています。このリアルタイムハイブリッドシミュレーション技術は、 バーチャル試験と物理試験の長所を組み合わせ、これまでにないスピード、精度、コスト効率を実現しました。
モデル試験と物理試験を緊密に連携させ 1024Hz で動作させることで、強度・剛性試験に加えて振動特性も正確に評価できます。高速ハイブリッド試験の代表的な対象としては、せん断壁や橋柱などの構造物や、免震システムや応答緩和装置などのコンポーネントが挙げられます。
FHT システムでは、MTS のハードウェアとソフトウェアのみで構成されており、3 台の高速大容量アクチュエータを MTS のコントローラで駆動し、高速インターフェースを介してリアルタイムのコンピュータシミュレーションアプリケーションに接続しています。また、このシステムでは一連のデータ管理・共有ツールにオンラインでアクセスできるため、コロラド大学ボールダー校の地震エンジニアは、遠隔地の NEES 拠点にいる同業者の研究者と共同作業を行うことができます。
MTS は、NEES がリアルタイムハイブリッドシミュレーションをサポートするために必要なアルゴリズムの開発も支援しました。NEESの現場管理者である Tom Bowen 氏は次のように語っています。「アクチュエータだけでは、この速い応答速度を実現することはできません。むしろ、アクチュエータにはやるべき作業を指示する必要があります。MTS は、そのようなスピードを駆動するために必要な計算能力の開発に貢献してくれました。
リアルタイム、あるいは高速のハイブリッドシミュレーションは、物理試験とバーチャルモデルデータを単独のシミュレーションと調和させるために必要な高度なアルゴリズムを適用できる現在の高速コンピュータ処理能力により可能となりました。そして何よりも重要なのは、実際の地震負荷下での構造物のリアルタイムな応答に近い速度で試験を実施することです。これは、以前は振動台の使用でしか達成できなかった極めて現実に近い応答速度に加え、擬似力学試験の費用効果を実現できるということです」
お客様のメリット
Bowen 氏によると、NEES は MTS のハードウェア、ソフトウェア、コンサルティング サポートをプロジェクトに採用した理由は、MTS の 地震試験のリーダーシップ、 幅広い製品の提供、 アフターサポートに対する評判が高かったためだそうです。
「 リアルタイムハイブリッドシステムを構築するために 必要な設備や専門知識を考慮したところ、 MTS の名前が 何度もトップに上がってきました」と Bowen 氏は語っています。 「MTS の提案は他社より少し高価なものでしたが、 MTS のソリューションにより得られる価値は 他社を遥かに上回るものだったので 、MTS を採用しました。 これは、 主に予算で動いている 州立大学 からの素晴らしい評価です。」
全米のラボ向けに強化された地震試験
全米の研究者は、NEES ネットワークを通じて コロラド大学ボールダー校の FHT ソリューション にアクセスできます。試験は、 ボルダー校の現地でも、インターネット経由での遠隔 でも実施できます。FHT システム は、地震試験 を大幅に強化し、リアルタイム 応答速度と、試験ラボの広範なコミュニティが利用可能な実際の地震事象の高負荷 を 提供します。このシステムは 振動台に替わる費用効率の高い代替品で、 従来の擬似力学試験よりも技術的に優れているため 複雑に結合されたシステムを 深く理解できるようになります。
また、FHT システムで作成されたバーチャルモデルにより、エンジニアが下部構造や部材の試験を行う時の貴重な時間も節約できます。
「FHT システムは堅牢な試験データを提供してくれる他に、地震学者が試験計画のサポートについて心配しないで研究に費やす時間をつくれるという利点もあります」と Bowen 氏は語っています。「このシステムのおかげで、コミュニティ全体でのオープンな情報交換が可能です。一か所の試験ラボでは得られない専門知識を結集することで、業界全体がその恩恵を受けているのです」
Bowen 氏は、FHT プログラムの成功の鍵となったのは、MTS との提携だったと述べています。「言い古されたことばですが、MTS は真の意味でのパートナーでした」と彼は言います。「MTS が提供してくれる専門知識とサポートには限界がありませんでした」