機械冶金学の博士号と数十年にわたる高温試験の経験を背景に持つMTS R&Dのエンジニア兼スタッフサイエンティストであるErik Schwarzkopf氏が、試験温度の正確な管理を維持する上での課題について説明しています。
Q:温度が、材料試験、特に等温LCFやHCF試験においてそれほど重要な理由は何ですか?
A: エンジニアは、実際の動作環境で発生する温度で確実に動作する製品や構成部品を設計できるように、さまざまな温度で材料特性がどのように変化するかを理解する必要があります。低サイクル疲労(LCF)や高サイクル疲労(HCF)試験は長時間も継続するため、温度安定性が非常に重要です。試験の過程で、5度または10度のドリフトは結果に大きな不確実性を加える可能性があります。
Q:一般的な試験構成における温度測定の方法は?
A: 最も一般的な方法は、2本の金属導線 (ワイヤ) を持つ熱電対です。ワイヤの接合部に流れる電流は、接合部の温度に比例します。ワイヤーは通常、接合部の温度が試験片の温度と同じになるように試験片に取り付けられます。高温試験では、プラチナ-ロジウム線を用いたR型熱電対が用いられますが、クロメルアルメル線を用いたK型熱電対の方が安価になります。低温で高感度用途には鉄-コンスタンタンのJ型熱電対が必要です。
Q:試験時の温度管理の方法は?
A: 比例-積分-微分(PID)コントローラからの出力を使用して、試験片を囲む加熱系統に通電させることができます。チャンバーまたは炉内では、1つ以上のコントローラを使用して、内部空間のさまざまなゾーンを管理することができます。これによって、激しく温度が変化するポケットがあっても、試験片全体の温度が均一になるように温度を管理することができます。
Q:実際に炉内の温度はそれほど異なるものですか?
A: はい。仮に温度コントローラが炉内の3つの発熱体に同じ指示を送った場合、試験片全体の勾配は試験結果に疑問が生じるほどの差異が発生します。当然、これは許容されません。また、使えるものでもありません。温度を効果的に管理することは可能ですが、そのためには熱力学的なメカニズムを理解する必要があります。勾配は、ロードトレインが炉の外のロードセルとアクチュエータまで伸びており、その部分が室温にさらされているため発生します。発熱体が熱を加え続ける間、炉内の熱は伝導で周囲に伝達されますが、これらの作用が生じる速度は同じではありません。複数ゾーン管理では、大きな勾配を試験片のゲージ長から遠ざけ、シャンクやプッシュロッドの方向に押し出す「バッファ」を作成します。この方法では、試験片の縮小された部分の勾配は許容範囲内で小さくなります。
Q:試験片の勾配はどの程度まで小さくするべきですか?
A: 規格によって異なります。国内および国際的な様々なLCF、HCFの試験仕様では、勾配についての意見が統一されていません。一般に、ゲージ長の最大勾配は公称試験温度の数パーセントとされています。つまり、公称試験温度が500℃の場合、縮小した部分の勾配は5℃~10℃(1~2%以下)が望ましいとされています。十分に設計された試験装置では、縮小された部分の勾配を目標の温度の1%以内に抑えることができます。例えば、MTSモデル653.04の3つのゾーンの炉は、公称試験温度800℃で25mmのゲージ長にわたって勾配を±2℃に維持することが可能で、これはASTMとISOの仕様に十分に適合しています。
Q:目的の試験温度に達するまでにかかる時間は?
A: ランプアップして試験片を浸漬し、試験片とロードトレインで平衡になるまでに1時間かかることがあります。急激な温度上昇は、試験片をオーバーシュートさせてダメージを与えたり、冷却と再加熱に要する時間がさらに長くなる可能性があります。多くの研究所では、ランプアップにかける時間が生産性を妨げる可能性があるため、長年にわたってこれを最小限に抑えようとしてきました。一部の引張試験では、予備炉で試験片やロードトレインを予熱しておき、タイミングを見て試験装置に設置することも可能です。他の研究室では、炉のゾーンごとに加熱速度を可変にすることで、ソーク時間を短縮する実験を行っています。たとえば、MTS TestSuite™ MP Eliteソフトウェアの高温LCFおよびHCFテンプレートでは、複雑なプロファイルを使用して外側のゾーンを急速に温度まで上昇させてから、標本を含む内側のゾーンを慎重に昇温させます。ただし、多くの場合、ソーク時間は試験仕様で指定されています。
Q:常に、より大きく、より良い炉を選択する方が良いですか?
A: 「より大きい」と「より良い」の意味にもよります。炉には、最高温度が高い、断熱性が高い、内部が広い、加熱ゾーンが長い、制御するゾーンが多い、などがありますこの質問は、トレードオフは何かということでしょうか?制御ゾーンが多くなる、試験片の勾配は小さくなりますが、コストは高くなります。加熱ゾーンが長くなると、勾配も小さくなりますが、高温のプッシュロッドが必要になります。断熱性が高くなると、安定性は向上しますが、オーバーシュートからの復帰が困難になります。150℃の試験に1000℃の炉を使用すると、温度管理は難しくなります。この他にも色々あります。
Q:正確な温度管理のために、他に考慮すべき重要なことはありますか?
A: 炉やグリップなどのアクセサリーを選ぶ前に、用途の全容を考える必要があります。要求する試験温度、試験片の形状、勾配および試験時間。また、試験片の加熱方法、試験中の温度管理についても考える必要があります。等温試験で最も一般的な方法は、熱電対を試験片に接触させた抵抗加熱炉を使用する方法です。熱電対は、クラック発生部位となる可能性があるため、縮小された断面ではなく、試験片のシャンクにスポット溶接されています。 最も重要なことは、研究者が高温試験のために、現存する知識体系を最大限に活用することです。少し前までは、試行錯誤するのが普通でした。現在では、よりスマートな方法を選択してより正確な結果を得ることができるようになっています。